2013年1月24日木曜日

続 Kindleストアのオープンは海外在住者にとっては一大事、ではなかった件


香港にはAmazonのような大手の電子書籍販売サイトはない。香港の知人友人はどうしているのだろうと思い周りに聞いてみると、電子書籍なんて、インターネットにいくらでも落ちているよ、と言われることが多い。そもそも正規の料金を払って購入しようという気がない。驚くべきことに、普段電子書籍をかなり読んでいても、これまで一回も【購入】をしたことがない、という人も何人かいた。彼らはインターネット上で無料ダウンロードできるサイトを知っているのだ。

これまで一生懸命Amazonから清く正しく購入しようとしてきたけれど、なにしろ"電子"書籍なのだから、かつての音楽ファイルのように、インターネット上でダウンロードすることはテクニカル的には至極簡単だ。

もちろんそこには常に著作権の問題がついてまわるのだけれど、これだけ容易に手の届くような状況だと、罪悪感の壁を越えるのは赤信号を渡るのと同じぐらいのインパクトしか持ち得ない。

英語の書籍であれば、人気の高いMichael LewisやMalcolm Gladwell等の書籍のPDF版を見つけるのはGoogleすればすぐに出てくる。日本の実務書や参考書等はなかなかないようだけれど、漫画に関してはかなり充実したデータベースを誇る(?)ウェブサイトがいくらでも存在する。
さて、海外からの購入制限をいったん解除できるか調査したいので、長期出張の期間を教えてくれ、という問い合わせに対して、なんと答えるべきかを少々考えた。はっきりといつまでと言ってしまうとその期間を越えると制限解除が終了してしまうのではないかと思い、数カ月ごとに香港、中国、日本を行ったり来たりしており、期間は未定、と曖昧な回答をすることにした。あながち嘘ではない。。。

待つこと2週間ほどで回答が来て、

"担当部署で確認し、購入制限を解除して良いとの回答がありましたため、当サイトにて制限を解除いたしました。しかしながら、今後も日本国外から購入する場合は、一定回数後に制限がかかりますので、その際はカスタマーサービスへご連絡くださいますようお願いいたします。"

とのことだった。

推測ではあるが、"一定回数後"というのは、今回と同じ"5冊の購入後"ではないかと思われ、その後はカスタマーサービスに連絡するということは、今回と同じ事をまた繰り返さなければいけない、という意味と思われる。世界一の顧客サービスを謳う割にはやや期待はずれの回答だ。この頃までには、Amazon Japanの電子書籍の配信開始という事実に対しての興奮も既に冷めており、むしろ世の中のいわゆる違法電子書籍配信サイトがどれだけ広まっているのか、という"事実確認"に力を入れるようになっていた。

なので、せっかくAmazonには一時的に制限を解除してもらったのだけど、その後Kindleストアで書籍の購入はまだしていない。こうして見ると、Amazonが海外在住者に購入を認めない、というのは、一体誰の何の権利・利益を守っているのか、よくわからなくなってくる。海外からの購入を認めていれば少しは見込まれていたはずの売上はどこかに消えていってしまっているのだ。AppleのiTunesが成功しているように、"適正な"価格を提示することによって、顧客は海賊版ではなく対価を払っても正規版を手に入れたい、という層はある一定のボリューム以上はいると確信している。自分ももし電子書籍がペーパー版定価の半額で手に入るのであれば、喜んでその分の対価を払うと思う。
非常に簡単に海外在住日本人の日本語書籍購入における心の中の皮算用を図式化すると下記のような感じになる。

得られる効用は同じという前提で、金銭的コスト+手間+後ろめたさを入手のための総合コストとすると、手間もお金もかかるペーパー版のコストは非常に高くなり、これまで海外在住者が感じていた不便さを表している。仮に電子書籍がペーパー版の半額で提供されるとすると、手間も後ろめたさも感じない電子書籍のコストパフォーマンスはピカイチだ。

ところが、正規電子書籍の登場で大幅にコストが下がるはずだったにも関わらず、その正規のサービスが海外で使えないとなると、後ろめたさコストを抱え、探したりダウンロードの手間がかかるとは言え、金銭的コストがほぼ0の海賊版に流れてしまうのは合理的に見えてくる。もちろん後ろめたさコストはその人が持つモラルのレベルにより大きく変動するので、もしかしたら海賊版の総合コストがペーパー版のコストを上回る、というケースも中にはあるかもしれない。それよりも、そもそも後ろめたさコストが限りなく0に近く、海賊版の総合コストが電子書籍のコストを下回る、という可能性もおおいにあるのだけど。

一つはっきりしてきたのは、日本のAmazonが電子書籍の販売を始める始めないに関わらず、既に海外在住の日本人はPDFやらJPEGといった形態による日本語書籍コンテンツの流通による恩恵を受け始めていたということ。話には聞いていたけれど、ここまで様々な種類のコンテンツが手軽に手に入る状況だとは思っていなかった。週刊誌でさえ、発行して直ぐに電子化されてオンラインでダウンロードされるようになってしまっている。ここまで簡単になると、いくらモラルの高い自分であってもいつまでその魅力に抗うことができるかはなはだ疑問である、と一応述べておくことにしておく。